雨降って地固まり、星が降る
地盤ババンバンバン、エンドレス安田記念、せいやdopeness、フランス語バージョンとカラオケ、処女作と水の漫才から、1年!
いわゆる酒袋(又の名をハゲタコ)をしていると、「これは歴史に刻まれるな〜〜」という瞬間に日々遭遇することがある。
もう1年前とは思えないくらい記憶に鮮やかな2020年6月19日もまた、間違いなく霜降り明星史に刻まれている。
2人を彩る、数多ある強みの一つは「期待値を圧倒的な形で超える」というものだと思う。
図らずも2020年のプラネット賞から「年間賞」「話題賞」の獲得した、伝説の「ポケットいっぱいの秘密」回。
「特に何もありませんでした。」とは、あまりに熱くて、狂気で、思えない。
振り返ってみれば、あの日の開始前からもう、語り継がれるような回になることは予見されていた。
せいやさんの言葉を借りると「恋の大失敗」事件があって、普段ラジオを聴かない不特定多数、有名人、ひいては野次馬も含めて、期待値はめちゃくちゃ高まっていた。
かくいう私も初めてそのニュースを聞いた時、ラジオでの触れ方に結構懸かっているだろうな〜という感触を覚えている。
開始の午前3時。
いつものようにスタジオから見える空は真っ暗で、ラジオブースの灯りが2人を照らしていて。
待機画面から生中継に切り替わった瞬間流れる「ポケットいっぱいの秘密」と、「ぷんぷんぷんぷーんやないねん!!」というツッコミ。
そのツッコミを正面から浴びたせいやさんの笑顔が、とても明るかった事を鮮明に覚えている。
絶対に不安はあったと思う。
笑いたい気分であるはずもないのに、リスナーを笑わせる戦場に立つ。きっと話すことすら辛いような、憔悴した心情で。
だけど彼の笑顔はものすごくキラキラしていた。それは普段、2人でいる時に見せる、的確なツッコミが来たはにかむような笑顔。
異脳が憑依した瞬間なのか、粗品さんのツッコミに心から笑えた瞬間なのか、せいやさんにしか分からない。
でも、とにかく心強くて、眩しかった。
そして突入するイニミニな異脳芸の宝箱。
感覚で言うと、ディズニーランドにある「プーさんのハニーハント」という「眠っているプーさんの夢の中に突入して、現実や記憶の狭間をぐるぐる彷徨う」アトラクションに近いものがあったと思う。
耳の中を次々と通り過ぎていくボケとツッコミ。天才的な記憶力によって紡がれる再現、上手くいかなかった時の漫才、安田記念に乗せた全ボケの走馬灯。
意味は分からないのにとにかく面白い、という感覚。ずっと揺さぶられているような時間。
始めはどこへ進むのか分からない。外も先行きも真っ暗な中で、笑いの渦に全員が揺さぶられて、爆笑していく内に、外の風景がどんどん明るくなっていく。
特に、処女作の漫才を終えた後、せいやさんを後ろから照らす窓が綺麗に白んでいた。
人間が操ることはできない条件すら、見事に味方につける様子はもはや1本の作品。
2人が生み出す笑いに夢中になっていく間に、TLの雰囲気もみるみる変わっていった。
そして霜降り明星オールナイトニッポン0を象徴する楽曲となった『ポケットいっぱいの秘密』も、終了後にトレンド1位となって飛び交う反響の中、歌詞に対する感嘆が多く見られた。
偶然とはいえ私もすごく惹かれ、言い表せない作品的な部分だなと感じていたのだが、
12月26日Creepy Nutsオールナイトニッポン0で、M-1のプロモーションビデオに使われた「板の上の魔物」という楽曲を語る際のRさんの言葉が答えのような気がしたので紹介したい。
「『客がパンパンでもスカスカでもぶちかますだけ』ていう歌詞ね。ここって今のご時世をめちゃくちゃ的確に表現したみたいになってるんですけど、この曲去年に作った歌なんですよ。でも魂込めて作品作っとったらこういう事起こんねんな〜、たまたまリンクするって事が起こっちゃう訳ですよ!」
これだな、と思う。膝を打った。
「ひみつ」が「ないしょ」にされなかったせいで、「だれにもいわないでね」が守られなかった切なさ。
後に粗品さんが「なんか見かけたで、今までポケひみやってたんもこの日のためやったんかみたいな!」て笑っていたのが、Rさんの言葉と重なる。
そしてもう一つ伏線めいているのは、せいやさんが放ったボケが今の活動にもたまたま繋がっている。
少し前に流行った和牛さんの「ありがたいですね〜〜」モノマネも、当時は「タ〜ミネ〜タ〜♪」とネタの引用をしてたし、ミスターサスケさんの名前を出しまくっていたら2020年の年末SASUKEに出場していた。
エンドレス鎮座ラップもYouTubeでよくフロウが飛び出したり、Rさんとのバトルや「サントラ」歌唱に繋がった件、小林社長のモノマネをしていたらコーナーになってスペシャルウィークにお越し頂き、「笑っていいとも!」の再現で太田さんの「荒れろ荒れろォ!!」が完璧にハマったことからせいやさんのモノマネレパートリーにしっかり追加された。
話題を呼んだこの回がきっかけとなり、せいやさんのポケットの中は、日々さらに膨らんでいる。新しいものを増やしながら、現存のものも形を変えながら。
普段のバラエティや「ドキュメンタル」でも、ポケットの引き出し量が本当に桁違いなのだ。やっぱり凄い。
もう一つ思い起こされるのは、『粗品版ポケひみ』、せいやさんの体調不良を前代未聞の「1人ツッコミ」で乗り越えた8月14日の粗品ピン回である。
霜降り明星は、2人のノリでもよくあるように「じゃない方」という概念がとことん無い。
ゲストが入ると逆にテンポが落ちてしまうくらい、2人の掛け合いは完璧。だからこそ、2週続いたせいやさんの休みという事件に、正直面白さが落ちるのではないかと危惧されていた。
しかし杞憂だった。
粗品さんが2時間読んだメールはなんと1000通、総メール数は50960通。ニッポン放送のメールサーバーはなんと2回ダウンした。
また、BGMの選曲も頭文字を取ると「SEIYA TINPO」になっていた。正直終了後にこのセンスを知った時は1番衝撃を受けた事を覚えている。
これもまた、あの日の事件が無ければ生み出されなかった笑いだ。
歌詞まで霜降り明星と関連付いていてグッと来たし、ドストレートなイジり方なのに手の込んだボケでマイルドになっている技術は本当にさすがだな〜と感動した。
そして何よりも、せいやさんが気付いた反応をスタッフさん方、リスナー、粗品さん誰もが心待ちにしているメッセージが溢れているのだ。
大ピンチも霜降り明星ANN0チームらしく精通した音楽で花を添えて乗り越える姿勢、本当に格好良いと思う。
ハゲタコ連発、「おもんないメール送ってくんな!!」多数、しっかり光るワードセンスの才能、リスナーを引き込む気迫。ラストのツッコミは痛いファンを絶叫で斬って終了した2時間。彼らしさが、凝縮されていた。
ポケひみは、6月19日までとにかく純粋にクレイジーなコーナーとして異彩を放っていた。
しかしその日を機に、霜降り明星の『最終奥義』として完成したような気がする。
たとえ緊急事態が起こっても、誰も真似できない唯一無二のカードを切れる霜降り明星。
戦闘力は桁違い。
またポケひみと遭遇できるかどうかは分からないけれど、リアルタイムの2時間ポケひみは間違いなく忘れられないな〜と思うのだ。
あのポケひみ回以降。
霜降り明星は、例の事件によって増えたピンチを、どんどん乗り越えてきた。
霜バラのバンジージャンプ、『てれびのおばけ
』と重なった裁判、3本飛んだCM、何よりせいやさんの純粋な恋心。
しかし、見取り図の盛山さんが弟分のせいやさんに贈った「これでせいやの芸人としてのピースは全部揃った。もう最強や」という言葉に、彼が得たものもまた少なくない事が証明されている。
『生きるのが下手』な彼らから(割と頻繁に)繰り出される「APEXのノリかノリじゃないか論争」や記憶に新しい「2021528の変」など、小さな炎上は幾つか起こったりもした。
だが、あの事件すら吸い込んでピンチを笑いに変えることができた2人の前では、極めて楽観的なものに見える。
結局、2人なら全てが笑いになってしまう。
良くも悪くも、無敵である。
イニミニマンとスパチャおばけ、又の名を霜降り明星。
その一等星の軌道を見守っていたい。